メディアレポート

アメリカのテレビ視聴率調査はどうなっているか – 後編 (リサーチ評論家 藤平芳紀氏)

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米国視聴率調査事情

前回のアメリカのテレビ視聴率調査 – 前編では、ニールセン社が一社独占状態を築くまでの歴史と近年の取り組みをみてきた。それではニールセン社以外の視聴率調査会社はどのようになっているのだろうか? 今回は、近年、米国で最も話題となっている2社について、その状況をまとめてみよう。

多様な視聴サービスを提供するレントラック社

ニールセン社の競合として、近年、ますます勢いのあるのが、レントラック社である。
同社は、1977年、R.バーガー氏によりNational Video社という名前で創設され、2000年にレントラック社に改称。「Movie Everywhere」という映画の興行収入情報を提供するサービスで売り上げを伸ばし、2011年には「TV Essential」というテレビ視聴の測定を開始。日々、ローカル・テレビ局及び広告スポンサーに向け、各種の視聴データを配信している。

 「TV Essential 」は、全米1,400万世帯の保有する3,100万台のスクリーンからテレビ視聴データを収集。テレビ広告の売り手や買い手にデモグラフィックの視聴データを提供するサービスである。

www.rentrack.com

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その極めつきは昨2014年11月と12月に相次いで特許を取得した「Commercial Ratings」と「TV Effectiveness」の二つのサービスであろう。

  「Commercial Ratings(特許番号:8,887,188)」は、テレビCMが視聴された際、秒単位でセット・トップ・ボックスから得られるデータを収集・分析し、それがハイビジョン・テレビで視聴されたものか、録画再生によるものか、ビデオ・オン・ディマンドのものか、インタラクティブ・テレビのものなのかなど、いずれのハードによる視聴かを測定するもので、C3やC7などニールセン社が測定しているCM枠の平均視聴率とは異なる指標である。

後者の「TV Effectiveness」は、人々のテレビ視聴の関わりの「深さ」を測定するもので、昨2014年10月、米国特許を取得した(特許番号:No.8,904,419)。このサービスは同社の実施しているどの番組が視聴者と最も関わり合いが強いのかを裏番組との関係で分析する「Stickiness」という調査の一環として、録画の再生(DVR視聴)やインターネット回線を通じてコンテンツを提供するサービス(OTT視聴)にも適用できると業界からの期待も大きい。

シングルソースで究極の視聴率調査を目指したティー・アール・エー社

もう一つは2008年にM.リーベルマン氏によって創設されたティー・アール・エー社である。同社のサービスは、テレビ広告の対費用効果を高めるためのソリューションを提供するもので、セット・トップ・ボックスから得られるテレビの視聴データと商品の購入データをマッチングすることにより、どんな人たちが実際に広告された商品を購入したかどうかを測る、いわば究極の視聴データ・サービスともいえるものである。

同社ホーム・ページによると、TRAnalytics(R)というこのサービスは、200万世帯のテレビの視聴データと6,000万件の購買データをマッチさせ、50万世帯のシングルソースのデータ・ベース・パネルを作成。当該商品の広告を見た視聴者が、果たしてその商品を購入したかどうかを調べ、ユーザー宛に「シングルソース・データ」として提供するものである。

例えば自動車の場合、自動車登録している1億1,500万の世帯と視聴世帯をマッチングさせて70万のシングル・ソース・パネルを作成して、広告視聴と広告商品の購入状況を測定するのである。また化粧品では16億件を超える大量の処方箋から90万の世帯パネルを作成するといった塩梅である。
 同社が作成している報告書には次のようなものがある。

TAM(Television Audience Measurement Report)
 ・広告の露出レポート
 ・視聴の維持測定レポート
 ・R&Fレポート
秒単位のテレビ視聴の測定
TTI(True Target Index) 広告商品と番組視聴の測定
ROI(Return On Investment Report) 投資効率最大化のための評価

2012年、TiVo Inc.がティー・アール・エー社を買収

www.tivo.com/media-research

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しかしティー・アール・エー社のシングルソース調査は、広告投下の効果測定にダイレクトに役立つため、2012年、デジタル通信サービス大手のTiVo Inc.社によって、買収された。

TiVo Inc.社のT.ロジャーズ社長は、こう述べている。

“テレビは消費者の購買に関して、長年、影響を与える最良のメディアであった。ティー・アール・エー社は、実際の買いもの行動とテレビ広告の視聴を関係づけるために有効なプラットフォームを提供してきた。わがTiVo社はメディア出稿効率化のため、買いもの行動の正確な測定を誰よりも待ち望んできたのだ”、と。

一方、ティー・アール・エー社のM.リーベルマン会長は、“TiVo社は、わが社にとって長年の顧客であった。今回の一件は、わが社も新たな大きなステップになるものと大いに期待している”と語っている。

視聴率調査の日米比較:その「環境」と「制度」から

2回にわたって、米国の視聴率調査の現況について申し述べてきたが、最後に、わが国の視聴率調査と米国の違いについて、視聴率調査会社を取り巻く「環境」と「制度」の両面から見てみよう。

日米の「環境」の違い

日米とも、視聴率調査の調査機関は、今日、どちらもほぼ「一社独占」の環境にある。しかし詳細に見ると、微妙な違いがある。その違いは、わが国の視聴率調査が、単体の社による発展の歴史であるのに対して、米国の場合、複数の社が陶太し、M&Aを繰り返しながら成長し、今日に至るというところにある。直近では2012年のニールセン社によるアービトロン社の買収は、その典型的な事例といえよう。

他方、わが国の視聴率調査の大手ビデオリサーチ社はというと、民間放送局10数社と電通、博報堂などの大手広告代理店及び東芝の出資により1962年に設立されたが、爾来、どの社とも合併することなく、独自の路線で成長を遂げている。1960年代当初は競合会社日本ニールセン社に日本発の機械式テレビ視聴率調査の開始において先行を許したものの、同社がこの事業から2000年に撤退した以後は、長年、競合社の参入もなく視聴率を提供する唯一の会社として事業を運営してきた。

日米の「制度」について

わが国の視聴率調査は、テレビの文化的側面を測るデータとして、番組改編や番組制作に利用される一方、テレビの広告的側面から、その到達効果を測る指標としての二面性を有するが、米国では、主としてテレビ広告の取引のための通貨としてのみ利用される点で、大きな違いがあるといえよう。

そのため、米国ではわが国以上に正確さ、詳細さが求められており、その調査としての信頼性、正確性、そして妥当性を第三者の監査機関(Media Rating Council:MRC)が検証し、MRCの定めるミニマム・スタンダード(調査の最低基準)にパスした調査にのみにクレジットを与え、スタンダードと認める「制度」がある。そのため調査会社は“知らず知らずのうちに、襟を正さねばというプレッシャーを受けている”のである。

またニールセン社に対しては、大手のネットワークや広告代理店、広告主などが出資し、同社の調査にのみ「検証」を実施するCONTAM(Committee On Nationwide Television Audience Measurement)という監視機関もある。
さらに前回のコラム(アメリカのテレビ視聴率調査 – 前編)でも記載したが、調査専門家委員会(Council for Research Excellence)というニールセン社に対して視聴率調査の「在るべき姿」を勧告する独立機関などの存在もあり、大手の調査会社とて安穏としてはおれない仕組みとなっているのである。

我が国のテレビ視聴率調査をめぐる近年の動き

一方、わが国においても昨今、テレビ視聴調査環境に変化が起こり始めた。

テレビ視聴と商品購入の状況を調べるインテージ社や、視聴者の番組に対する質の測定「テレビ・ウォッチャー」を提供するデータ・ニュース社が登場。さらには関東エリア5,000人(2,000世帯)のテレビ視聴を秒単位に捉え、ほぼリアルタイムで結果を提供するスイッチ・メディア・ラボ社などが、大サンプルによる詳細データを提供し始めており、テレビ視聴調査環境が充実する機運にある。
視聴者調査にもさらなる充実が図られることは必定であり、ますます調査制度の確立が求められるようになるだろう。その行く末を大いに期待したいものである。

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