メディアレポート

アメリカのテレビ視聴率調査はどうなっているか – 前編 (リサーチ評論家 藤平芳紀氏)

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米国視聴率調査事情

テレビに関するマーケティングは、日本に対して先行している米国。テレビ視聴率調査は米国でどのように発展し、現在はどのようなリサーチ会社・調査方法がメジャーとなっているのか──。米国におけるテレビ視聴率調査について、前後編の2回に分けて、論じてみよう。

アメリカ視聴率調査の歴史のはじまり

米国における視聴率調査は1946年の「フーパー社」の調査に始まる。同社は女子大生に調査世帯に電話をかけさせる調査手法によって“番組を見ているのは誰か”を測定した。翌47年、ARB社が日記式の手法で“視聴者を特定する”調査を行った。

しかしながら、フーバー社の電話調査は電話に出た人に“ご覧の番組は?“と尋ねるため、たとえその人がボクシング中継を見ていても“「シェークスピア劇場」を見ていますよ”などと答える「ウソ」の回答を防ぎ切れなかったり、ARB社の日記式調査では人の記憶に頼るため、見ていたのに“見なかった”と記入したり、見ていなかったのに“見た”と記入するなど、「記憶違い」の解答がなされることも少なからずあったのである。

機械式テレビ視聴率調査の登場 (1940~80年代)

そうしたなか登場したのが、世帯に取り付けたメータによって、より正確にテレビ視聴を分刻みに測定するニールセン社(1948年)であった。この機械による正確な調査を行うニールセン社登場により、フーパー社はこの事業からいち早く脱落。機械式調査技法を開発したアービトロン社(ARB社から改称)とニールセン社との一騎打ちとなった。

両社の戦いは、ニールセンの全米調査(Nielsen Television Index)とローカル視聴率調査(Nielsen Station Index)VSアービトロンのローカル視聴率調査に二分され、ニールセンの全米視聴率、アービトロンのローカル視聴率というように色分けされ、利用された。

大きな転機となったのは、1987年の機械式個人視聴率調査(ピープルメータ)の導入であった。折からのターゲット・セグメンテーションを重視する広告戦略の流行により、“番組を見ている人は、はたして自社商品のターゲットなのか?”を知りたがる広告主の声が高まった。誰が見ているのか判らない「世帯視聴率」調査よりも、誰が見ているのかを調べるメータによる「個人視聴率」調査が主流となったのである。

この調査にはニールセン社とアービトロン社の他に、英国のAGB社が参戦。三つ巴の戦いとなったが、調査の不備からAGB社が脱落(1988年)。ピープルメータ調査の「覇権」をめぐる戦いは、ニールセン社とアービトロン社の二社に絞られたのである。

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テレビ視聴率測定機の開発競争 (1990年代~)

折からの広告戦略に応え、さらなる開発に着手したのは、アービトロン社であった。テレビ広告と視聴率の有効性を考えるとき、“誰がどんな番組を見たのか?”もさることながら、“見た人はどんな製品を買ったのか?”を調べる同一サンプルによる視聴と購入の関係を測定する「シングル・ソース」調査が、より一層重要であるとのスタンスに立ったアービトロンは、1990年、ScanAmericaという調査を開発した。

この調査はテレビ視聴の測定はピープルメータで行うが、購入商品の情報については、商品についているバー・コードをペン・タイプのスキャナーで商品名、単価、購入個数を読み取り、スキャンしたデータをアービトロンの中央コンピュータに送信する手法である。さらにアービトロンは、商品の購入者に可搬式のテレビ視聴測定機(ポータブル・ピープルメータ)を直接取り付けた方がいいとの発想から携帯端末大の測定機を製作。実験室内の識別精度も上々であった。

しかしアービトロン社はこの測定機をScanAmerica調査に導入するための収支に見合うだけの顧客の獲得を得るに至らず、残念ながら当時の視聴率調査の代替機として使用するに過ぎなかったのである。

一方、ニールセン社も測定機の開発に手を拱いていたわけではない。アービトロン社とほぼ同時期に、同じ様なERIMというシングル・ソース調査を開始。アービトロンと同じような可搬式のテレビ視聴率測定機(Go Meter、Solo Meter)も開発している。
しかし当時、米国広告業界はニールセンに、もっと別のものを求めてきたのである。2005年、CRE(Council for Research Excellence:調査専門家委員会)は、デジタル化時代の視聴率調査に、“ニールセンはどうするのか?”とその対応を求めたのであった。

2014年、ニールセン社の「一社独占体制」へ

CREの「勧告」に応じ、ニールセンが21世紀における視聴率調査の在るべき姿として答えたのが「A2/M2(Anytime、Anywhere、Media、Measurement:いつでも、どこでも、どんなメディアでも、測定する)システム」の構築であった。

ニールセン社は、2006年、ただちにA4版24ページからなる計画を発表した。計画書には「21世紀のテレビ調査開発への取り組み」をはじめ、「テレビ視聴とインターネット視聴の統合」、「自宅外視聴の測定」、「ローカル地区メータ調査の拡大」、「モバイル装置の視聴測定」、「視聴の関わり方(Engagement)の測定」などが、タイム・スケジュートとともに、ことこまかく記された。
これら計画の中で、一点、「自宅外視聴」については、自社開発の可搬式測定機よりもアービトロン社の開発したPPM(ポータブル・ピープル・メータ)の方が、性能も使い勝手もよいとの判断から、2012年、ニールセン社はアービトロン社に買収を働きかけた。
2014年早々、この買収はFTC(Federal Trading Committee=公共取引委員会)に承認され、文字通りニールセンによる視聴率調査ビジネスの「一社独占」体制が確立されたのである。

新しい通貨の登場「タイムシフト視聴」

とはいいながら、ニールセンに問題がなくなったわけではなかった。録画・再生機器の普及が大きく伸び、人々のテレビ視聴はライブだけではなく、予め録画しておいたものを自分の見たいとき、見たい時間に再生視聴して楽しむという「タイムシフト」での視聴が多く見られるようになった。

このため、ニールセンは、2010年、実放送の終了後24時間以内に録画しておいた番組を再生視聴するライブ・プラス・セイムデイの視聴率の算出を始めたのである。その後、測定対象を放送後3日以内(ライブ・プラス・スリーデイズ=L3)、一週間以内(ライブ・プラス・セブンデイズ=L7)に拡大。
今ではこのL7が、米国におけるテレビ視聴率の「スタンダード」となっている。

タイムシフト視聴のライブ視聴に与える影響は大きく、例えばFoxの11月30日放送の「Gotham」という番組の18-49歳のライブ視聴率は2.3%だが、L7では65%増の3.8%になるといった塩梅である。とくにドラマのタイムシフトによる効果は、平均1.7倍強にもなっているのである。
 他方、広告主からは番組のタイムシフト視聴ではなく、番組に挿入されたコマーシャルについても同じ様に放送後3日以内の再生CMの平均視聴率(C3)、7日以内の再生CM(C7)の平均視聴率が求められ、視聴率の尺度をめぐるネットワーク側と広告主の側の駆け引きは益々激化している。

ニールセン社の視聴測定、最近の取り組み

業界からはニールセン社に対し、デジタルコンテンツの増加にもかかわらず、それらが現行の視聴率に反映されていないとの批判が多い。たとえばタブレットやスマホの視聴が測定の対象に含まれていなかったり、YouTubeなど新たなビデオ・コンテンツによる視聴時間が増加しているにもかかわらず、それらの視聴がアンカウンテッド(測定漏れ)となっている・・・など、などである。

最後に、こうしたさまざまな批判に対して、ニールセンはどのように対応しているのか、ここ半年間の同社の対応ぶりについてまとめておこう。

一つは「モバイル」への対応である。Facebook社との提携により、モバイル・テレビの測定を可能にした(2014/8)。また「デジタル・コンテンツ」への対応にはAdobe社の協力を得て、「Digital Content Rating」のサービスを開始したり、全ての視聴者を対象に「トータル・コマーシャルの測定」を提案(2014/11)している。また昨年12月にはNetflixやAmazonの「ストリーム・ビデオの測定」を始めたとの情報も伝えられている。
このようにニールセン社の調査は競合会社との測定機の開発競争やユーザーによる現行調査への改善・改良についての強い要望、さらには業界団体による勧告など、さまざまなプレッシャーがあり、こうした外部・関係先からのもろもろの「圧力」を乗り越えつつ、進歩・発展を遂げているのである。

後編では、米国における新興テレビ視聴調査について、取り上げてみたい。

アメリカのテレビ視聴率調査 – 後編

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